【中国映画】薬の神じゃない! の感想 何が正しくて何が正しくないのか考えてしまう

昨年見た映画の中でも上位に入りそうなのはこの「薬の神じゃない!」であります。内容もなかなか興味深いものだったんですよね。事実に基づいたストーリーということなんだけど、きっとこの映画を見なかったらただ知らないで終わったかもしれないなあ。

元になったのは2014年に中国で実際に起きたニセ薬事件。この事件によって、中国の製薬業界はかなり変わったそうです。「薬」という存在はお金儲けの観点から見ると大変儲かる分野なんでしょうね、きっと。それはどうしても命がかかわってくるから。だからそれを悪用したり利用しようとする人はどうしても無くならないんだろうなとも思う。でも、この映画を見るとそれでも少しずつ良い世界になって行ってるのだと希望を持てる気持ちになれたかもしれない。

インドの強壮剤を輸入して販売しているチョン・ヨンなんだけど、親の病気やらなにやらでお金もなく、困っていたところに慢性骨髄性白血病のリュ・ショウイーがやってくるところから話は始まります。国内で販売している薬が高く購入できないため、インドのジェネリック薬を密輸して欲しいとチョン・ヨンに依頼するのです。はじめは断るんだけど、いよいよお金に困ったチョン・ヨンはその仕事を受けることに。はじめはお金のために始めたことだったし、一度は手放すものの、患者たちの窮状を知って彼が選ぶ道とは・・・。

非常にチェン・ヨンの人物造詣がうまくて、そこが良いんです。はじめに彼が密輸を始めたのは純粋にお金のためだったし、彼が最終的にもう一度今度はお金のためじゃなく患者のみんなのために密輸を再開したのは、現状を知ってしまったからでもあるし、良心の呵責と罪滅ぼしの気持ちや、彼自身にお金や精神の余裕もあったからともいえると思うんですよね。だから本当に彼は神様なんかではないんだけど、でもどちらかというと俗物的な彼がそれでも選んだ道だからこそぐっと来てしまうというか。本当に最後は覚悟を決める訳ですよ。息子を元妻のところに送って手放していつ捕まってもいいような手筈まで整えて、それでも人間として正しいと思ったことをするという。法を犯しているかもしれないけれど、命を守るためにしたことが正しくないのだろうか、と考えさせられてしまう。そして重苦しくなってしまいそうな内容だというのに、コメディー色もちりばめられていて見事としか言えない。でも、チェン・ヨンが護送されていく時の患者たちの見送りの列のシーンで泣かずにはいられなかったけどね。

さて、主演のシュー・ジェン(徐錚)は、眠れぬ夜のカルテではスキンヘッドだったので、同一人物だとは分からなかったけど、どちらもとても味のある演技ですごく良かったですし、他のキャストも最高に良かったんですよ。呂受益役のワン・チュエンジュン(王伝君)は20キロも体重を落として撮影に挑んだそうだし、彭浩役の章宇(チャン・ユー)も実年齢よりもかなり若い金髪少年役が素晴らしかったし、リウ牧師役の楊新鳴(ヤン・シンミン)も、紅一点ともいえる譚卓役の劉 思慧(リウ・スーフェイ)もとても良かったなあ。こんなにも他の人は考えられない!みたいな気持ちにしてくれるキャスティングってなかなか無いかもなあ。それくらい好きでしたなあ。

あと元妻の弟の警官の曹斌役で周一囲も出てて、少林問答の時のイメージが強すぎて、髪の毛がある!なんて驚いたりもしたけれど、やっぱりここでも熱血な役だったな。目力ゆえにこういう役がとても似合う。彼の役柄もこのストーリーの大事なポイントだったと思うなあ。

知らなければ、知らないまま関わらずにいられることでも、その真ん中に入って現状を知り自分自身も当事者になることで初めて実感できることもある、ということと、あのペテン師が言ってた「本当に怖い病気は貧乏だ」という言葉が凄く心に残ったりもしましたね。色々な部分でとても良い映画だったなあ。

薬の神じゃない!が見れるのは