「チャンシルさんには福が多いね」を見て来たんですよね。なかなか面白かったです。最近、韓国映画は女性監督の作品が増えてきているようで、日本にやって来た時に、女性監督の作品というだけで一括りにして紹介されるのはあんまり好きではないけれど、確かに最近見た中で「はちどり」とこの「チャンシルさんには福が多いね」に関しては、きっとご自分が経験して感じたであろう感情をこうも色鮮やかに再現してみせるというのはなんという才能なんだろうと感嘆したのであります。なので確かに自身の経験を投影したような作品作りは女性監督の方が得意なのかもしれないなあとは思う。もしくは、見てる自分が女性だから、表現されている感情に覚えがあるからそう感じるのかもしれない。そうだとしたら、それはそれで興味深いこと事実ですねえ!
そしてこの映画の面白かったところは、コメディータッチなので緩和はされてるけど、なかなか辛辣だったりするするところ。一番ぐはって笑ってしまったのは、チャンシルさんの父親からの手紙の追伸。「今までプロデューサーとして関わっていた映画は実際のところ、どこが良いか分からなくて眠くなりました」みたいなとこ。ここもだし、そもそも監督が死んで無職になったという設定もだし、なかなか皮肉が効いてる。長年に渡ってホン・サンス監督作のプロデューサーを務めてきたというキム・チョヒ監督なので、辞めた経緯とか詳しいことは知らないけど、なんとなく「察し・・・」みたいな気分にはなっちゃうね。ははは。
プロデューサーという立場の何者でもない感とか、その年ごろの女性の立場の微妙さとか苦しい気持ちの吐露もあるのだけど、タイトルにあるように実は生きていること自体がとても幸せなことだというのがしみじみと伝わってくるような感覚があって、見終わった後の感触がとてもいいのでした。まぶしいほどの光ではないけれど、夜道で彼女が持っていた懐中電灯のようなささやかな光のような希望を見た感じ。そう考えると、柿の木やら、躓いても転ばないところやら、その懐中電灯やら、細部まで気を配って作られた映画だなと思うのでした。
あと、脳内レスリー・チャンという存在も突拍子も無いようで、チャンシルさんのイメージにしっくり来てて良かったですね。レスリー・チャンはああいうランニングシャツのイメージの人が大半なのかもなあ。私にとっての彼は覇王別姫の程蝶衣のイメージが強いので、ああそうなのだなあと思いながら見ていました。亡くなってからもう17年も経つんですねえ・・・
まあそれは置いといて、ああいう存在を作り出せるのも監督が映画を好きだからこそで、小津安二郎の作品の話も出てきましたが、それだけ好きなものがあるということは、実はとても幸福なことなのだなと思ったのでした。捨てようとした本をもう一度部屋に戻すところも良かったですね。一度手放して、でも心の中に出来た空白にやっぱり好きだともう一度取り戻すという選択が素敵だった。ずっと握りしめたままだと気づかない気持ち。
そうやって、監督が再確認したであろう映画愛が溢れた作品なのでした。だからかな、自分の中にある映画を好きな気持ちにも触れることが出来た感覚があって、それがすごく幸せな気持ちをくれたような気がしたのでした!